2021年4月から5月までアフリカガーナの中小企業支援でさまざまな業種の企業を20社程度訪問しました。また、街中での散歩や移動の車中から見た現地の生活や経済状況について2019年のダブルミリオンセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』を引き合いに、日本の常識とは異なるアフリカガーナについてお伝えします。
ファクトフルネスで描かれているアフリカとガーナ
2019年のベストセラー書籍『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』では、世界各国を所得レベル1から4段階に分類(下図の横軸)しています。年間の所得レベル1は1,000USドル前後、レベル2は4,000USドル前後、レベル3は1万6,000USドル前後、レベル4は3万2,000USドル前後を表します。下図の縦軸は平均寿命です。このような縦軸と横軸に各国を分布すると、右上がりの直線的相関関係が見て取れます。
図 世界各国の所得レベルと平均寿命の散布図
出所:FACTFULNESS(ファクトフルネス)
続いて、アフリカにおける「健康」と「富の格差」を分布した図は下の通りです。多くのアフリカの国の所得(ひとりあたりGDP)は、レベル1から3に分布しています。レベル1には、最貧国である中央アフリカ共和国やソマリアが位置しています。レベル1の国は、1日の収入が2USドル程度です。一方、レベル3にはチュニジア、エジプト、南アフリカなどが位置しています。筆者が滞在したガーナは、アフリカの中で丁度中間の所得・平均寿命に位置しています。同じアフリカといっても、同じ国の中でもレベル1からレベル4までの貧富の差が激しいのがアフリカの特徴です。
図 アフリカにおける「健康」と「富」の格差
出所:FACTFULNESS(ファクトフルネス)
ファクトフルネスで紹介されているレベル1からレベル4の4つの所得レベルごとの暮らしは、下の写真の通りです。たとえば、同書でレベル2に位置づけられているアフリカガーナでは、実際に街を歩いている人を見るとサンダルを履いている人がほとんどです。ガーナの首都であるアクラから車で5時間程度の第二都市クマシの田舎街でも子どもたちはサンダルを履いて遊んでいます。ただ、トイレは水洗式ではなく汲み取り式ですし、ガス栓が住宅まで配給されていることはなく、ガスボンベや薪で調理していのが多くの家庭です。世界的にみるとレベル2の生活をしている人々が多数である一方で、レベル1の生活を強いられている人々の数は近年急速に減少していることが同書の中でも述べられています。
出所:FACTFULNESS(ファクトフルネス)
ガーナの成長率と課題
世界銀行(下図)によるとガーナの経済成長率は近年5%前後の成長率を実現しており、アフリカの中でも高い経済成長率を遂げています。
実際に、現地企業(製造業、飲食業、小売業など)を訪問してみるとコロナ禍で売上高が減少している中小企業が多いものの、売上高が伸びず困っている企業はなく、需要に対応するための設備投資の資金調達に頭を悩ませている経営者が大多数です。
写真 ガーナの首都アクラの街中と雑貨店
ガーナの人口は約3,000万人であり、2000年当時の人口が約2,000万人であったことから考えると20年間で人口が約1.5倍まで増加しています。今後の増加率は減少傾向であるものの、日本のような人手不足といった課題を抱えている企業はなく、人材教育が課題であると認識している企業が大多数です。
ガーナの首都であるアクラ(Greater Accra州の州都)と第二都市クマシ(Kumasi)の中小企業の多くは、売上高の成長に困っている企業は少なく、需要に対応するための設備投資をするための資金調達に苦慮している企業が大多数です。生産現場(工場の製造現場、レストランの厨房、在庫管理など)が非効率性であることは否めないですが、生産が需要に追いつかないというのが多くの企業の共通の課題です。また、デジタル化は進んでおらず、ソーシャルメディアが中心です。ホームページをもたない分散型メディアで情報発信をする中小企業が主流です。
また、決済手段としてモバイルマネーが浸透しており、携帯通信会社が発行するモバイルマネーの受け渡しがビジネスでの決済手段になっている点は、日本のモバイルマネー(電子通貨)の浸透度とは大きく異なります。また、Ubermのような宅配サービスが普及しており、Jumila、Bolt、Glovoと行った宅配サービスを利用しているレストランも多数ありました。街中でUberを利用すれば外国人でも安心して5kmぐらいの距離を200円程度で移動できます。
ガーナの金融市場と資本市場
ガーナ企業が抱える最大の課題は金融市場からの資金調達です。金融機関(コマーシャルバンク)から資金調達しようとすると、年の金利が20%から30%かかります。これは、ガーナの中小企業に信用がないことが原因であり、土地や建物などの担保を提供しないと、営業利益率高い金利を支払うことになります。一方、銀行の普通口座の金利は約5%程度で日本の都市銀行の普通口座の金利が0.001%であることと比べると、圧倒的に高金利ですが、インフレ率が10%程度であるため、銀行口座にお金を預けても実質は目減りします。ガーナは労働集約型の市場であり資本市場が機能していないことが今後の経済成長における大きな課題です。
ガーナの第二の都市クマシから首都アクラに移動する空港で出会った、プライベートエクイティのExecutive Directorからから聞いたガーナ企業へのエクイティファイナンス(株式投資に対する期待収益率)は22.4%であり、デッドファイナンス(金融融資に対する期待収益率)は10%程度でした。日本人の感覚からすると、かなりのハイリスクハイリターンの投資のようにも感じますが、これがアフリカで現実に起こっている株式投資です。
写真 現地支援先企業の商品が販売されているスーパーの棚
経済が成長している国では、資本不足が大きな課題であり資本が余っている海外(たとえば、日本)からの資本投資できれば大きな成果につながります。海外投資には為替リスクや貸倒リスクはありますが、経済学者であるリカルドが18世紀に提唱した「比較優位」で述べられている通り、ガーナの中小企業と信用が構築できたら、個人でも融資・投資できる金額であるため、個人がマイクロ投資をしてみようと思わせるほど経済成長している国には魅力があります。
今後5年間に渡って現地ガーナの中小企業を支援するために、現地に渡航しますので、ガーナ経済の成長と課題についてお伝えしたいと思います。