過去最低の出生数は偶然なのか?

外でお座りしている赤ちゃん

 

労働厚生省の発表によると、2019年の出生数は86.5万人と、過去最低の数を更新しました。この86.5万人という数字は、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した「2021年に出生数は90万人を下回る」という予想を、2年も前倒した結果となります。

 

今回の記事では、

  • 過去最低の出生数は偶然おきた結果なのか?
  • 国立研究所の予想は妥当か?

 

という疑問を、実際のデータと統計学を用いて検証していきます。

 

過去最低の出生数は偶然なのか?

パソコンの前え考える男の子

 

回帰分析で出生数の推移を分析&考察してみる

 

① 単回帰分析より求められる2019年の出生数は?

別記事「日本の婚姻数と出生数には相関があるのか?」で、出生数と婚姻数の相関は強いことが分かっております。

そこで今回、単回帰分析を用いて回帰直線(回帰式)を求め、2019年の出生数を求めることを考えます。

 

婚姻数vs出生数および回帰直線

 

単回帰分析の結果、上記グラフの通り、回帰係数1.18切片242,043が求められました。

そのため、単回帰分析によって求められる回帰式は、

  • (N年の出生数) = (N年の婚姻数) × 1.18 + 242,043

 

で、表すことができます。

 

そして、2019年の出生数は、2019年の婚姻数実績=599,007 を用いることで、

  • (2019年の推定出生数) = 599,007 × 1.18 + 242,043 = 948,871[人]

 

と求めることができました。

 

② 回帰式で求めた出生数は実際の出生数とどれだけ違うか?

先ほど求めた2019年の出生数の推定値 948,871人に対して、実際の出生数は865,239人です。

したがって、2019年の実際の出生数は推定値より8.4万人ほど少ない結果となります。

項目 出生数
回帰直線の推定値 948,871
実績値 865,239
予実の差 83,632

 

婚姻数vs出生数および回帰直線4

 

前述の通り、国立社会保障・人口問題研究所より「2021年に出生数は90万人を下回る」と発表されていましたが、今回の単回帰分析で得られた推定値でも90万人を上回る結果であることから、上記、国立研究所の発表も的外れな予想とは言えなさそうです。

それでは、単回帰分析の推測値より8.4万人ほど下回った結果は、誤差の範囲なのでしょうか?

 

③ 出生数86.5万人は誤差の範囲内か?

単回帰分析の推測値より実際の出生数が8.4万人ほど下回った結果が、誤差の範囲内だったのかどうかを確認するために、統計的に求められる信頼区間を用いて検証することができます。

そして、統計的結果は、statsmodelというライブラリを用いることで、次のように求めることができます。

出生数の統計的データ

上記、統計的結果より、回帰直線の切片と傾きの95%信頼区間を、次のように得ることができました。

  • 切片の95%信頼区間= 163,000 ~ 321,000
  • 傾きの95%信頼区間=1.068 ~ 1.295

 

なお、95%信頼区間とは、得られたデータをもとに信頼区間を100回求めた場合、100回のうち95回は、信頼区間の範囲の中に真の値が含まれることを意味します。
(求めた信頼区間の範囲の中に真の値が含まれる確率が95%、という意味ではないことに注意が必要となります)

 

婚姻数と出生数の信頼区間

95%信頼区間をグラフで表示させると、2019年の出生数(赤いプロット)は、95%信頼区間の範囲からわずかに外れていることが分かります。

つまり、2019年の出生数データは、過去(2000年~2018年)の婚姻数と出生数の関係より求められる回帰直線の95%信頼区間から外れる結果となり、2019年出生数の減少は誤差の範囲ではないと言えそうです。

したがって、2019年の出生数は、婚姻数だけでは説明できない要因によって低くなったことが考えられることが分かりました。

 

まとめ

今回の記事では「過去最低の出生数は偶然なのか?」というテーマを、単回帰分析による回帰式と信頼区間を用いて検証していきました。

過去最低を記録した2019年の出生数は、国立研究所の予想を下回る結果でありましたが、その予想自体が的外れということではなさそうでした。
さらに、婚姻数に基づく単回帰分析で求められる推定値の誤差の範囲を超えて下回る結果であることが分かりました。

この結果より、婚姻数だけでは説明できない要因があったことが考えれます。

 

厚生労働省が2021年2月22日に発表した「人口動能統計速報」によると、2020年の出生数は速報レベルで87.3万人と、2019年の86.5万人より若干上回ってますが、本数値は速報値であることから最終的な確定値は下回る可能性があるようです。
さらに、COVID-19の影響もあり、2021年はさらに出生数が減少するとも予想されています。

 

他の記事の内容も含めた今回の分析結果を踏まえると、日本の未来を支える子供たちを増やすためには、婚姻数を増やすことが必要ということになりますが、他にも、家庭の貯蓄額、教育資金、税金、社会保障制度など、様々な要因が影響していることは容易に想像できます。

そういう意味では、現在働いている私たちが、もっと日本を豊かにしていかないと、出生数も変わっていかないのかもしれません。

 

じゃあ

 

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パラレルキャリア研究会創設メンバー 岩手県出身。東北大学工学部卒、同大学院工学研究科修了。半導体メーカーに入社後、エンジニアとして半導体製品の企画・開発に従事。30代後半に軸ずらし転職でキャリアをシフト。本業の傍ら独学でPython&統計学を学習中。1児のパパ。趣味は日本酒、ロードバイク。中小企業診断士、SAKE DIPLOMA。