個人事業主としてある程度の収入が得られるようになってくると、節税を念頭に法人化を視野に入れる方も多いと思います。個人事業主のままで事業を継続するか、法人化するかの二者択一で考えた場合、法人化には思った以上の利点があります。
法人化した場合には、役員報酬や退職金の額を裁量をもって決められる、決算変更ができるなどさまざまな利点がありますが、その中でも税制面で3つの大きなメリットがあります。今回は法人化による税制上の大きな3つのメリットと、2つのデメリットについてお話します。
メリット1:社会保険料
法人化に際して私が1番メリットが大きいと思うのは「社会保険料」です。会社員こそ知っておきたい!収入が手元の現預金になるまででも触れていますが、社会保険料は個人事業主と会社員では保険料額を決めるベースが異なり、個人事業主は売上から経費を控除した「所得」を元に保険料額が算出されるのに対し、会社員は毎年4月から6月の給与から算定される「標準報酬月額」を元に保険料額が算出されます。
そのため、自分で会社を経営している場合には自身に対する月額の給与(役員報酬)を少なくすることで、保険料額を安く済ませることが可能になります。東京都の場合、標準報酬が等級1の月額63,000円未満だった場合、健康保険料と厚生年金保険料を合わせた保険料額の折半額が月額8,052円となります。年額では96,624円となり、現状と比較してかなり低くなると感じられるのではないでしょうか。しかし、あまりにご自身の役員報酬を低くしすぎると生活が成り立たなくなってしまいますので、事業所得や不動産所得など給与所得以外で所得を手にする選択肢を同時に考えておく必要があります。
さらに、健康保険では被保険者のほか被扶養者の病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。その点、国民健康保険の場合は被保険者の扶養家族であっても被扶養者にはならず、全員が被保険者となり、それぞれが保険料を支払うことになります。この健康保険の保険給付が行われる被扶養者の範囲は「被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人」となります。被扶養者の数に上限はないので、子どもが多い方、親兄弟など扶養するべき家族が多い場合にも健康保険はお得です。
メリット2:出張旅費日当
出張旅費日当とは、業務上必要な出張をした場合に会社が交通費実費とは別に日当を支給するものです。日当とは簡単に言えば滞在中の食費など現地での生活に必要なお金のことです。会社はこの出張旅費日当を経費として所得から控除できるため、節税効果があります。さらに、出張旅費日当は受け取る側(個人)は非課税になります。つまり、会社のお金を非課税で個人に移転できるというかなりお得な制度なのです。
ただし、出張旅費日当を設定するには、「出張旅費規定」をきちんと作成して書面に残す必要があります。また、日当の金額も世間の相場に対して不当に高額でない額にするという点も考慮しなければなりません。いくらが妥当であるという明確な決まりはありませんが、国内旅費日当であれば1日5千円程度まで、海外旅費日当であれば出張する地域の物価にもよりますが、1日1万円程度までが目安と言われています。
出張旅費日当のメリットを享受できるのは「出張が多い」ケースに限定されてはしまいますが、出張が多い個人事業主であれば法人化を検討した方がいいほどの大きな利点です。
メリット3:社宅制度
社宅制度も法人化による節税効果の大きな柱です。会社名義で賃貸借契約を締結する、もしくは物件を購入し会社が家賃やローンの支払いをすることで、賃貸の場合は家賃を経費計上でき、自己が所有する物件の場合はローンの金利等を計上できるようになります。さらに、建物の減価償却費や固定資産税も経費計上が可能です。大まかに家賃の8割前後を経費にできるケースが一般的であり、ひとり社長の場合でももちろん活用できます。
一方で、この制度を活用するには一定金額の家賃を役員報酬から徴収する必要があり、金額が満たない場合には「給与」扱いにされてしまうので注意が必要です。しかし、それでも社宅制度によって法人は家賃やローンの支払いを経費計上できることで節税効果が得られ、個人は世間の家賃相場に比べ少額で物件(社宅)に住めるメリットがあります。
以上が、一般的な法人化にともなう3大メリットです。その他にも赤字の繰越期間が個人事業主が3年であるのに対し法人は10年であること、個人事業主の損益通算が不動産所得(土地に係る利子は損益通算不可)・事業所得・山林所得・譲渡所得(不動産、株式等以外)に限られるのに対し、法人の場合は損益通算できるものできないものに分ける必要がなく、会社の事業活動により生じた利益や損失は自動的に通算されるなどのメリットもあります。
一方で、法人化による税制上のデメリットも存在します。デメリットは大きく2点です。
デメリット1:法人住民税
法人が支払うべき税金は法人税や所得税、消費税などいろいろありますが、その中でも「法人住民税」は法人を運営するに当たり新たに発生する税負担となります。「法人住民税」とは事業所所在地として指定した都道府県や市区町村といった地方公共団体に支払うもので、その各都道府県および市町村の公共サービスを享受しているという観点から、法人の事業所のある地方自治体に納付義務を負うことになります。法人住民税の額は法人の資本金等の額や従業員数によって決まり、自治体によって多少の差はあるものの、最低でも年間7〜8万円は徴収されます。
デメリット2:税理士報酬
個人事業主が「所得税の確定申告書」を作成する場合に比べて、「法人税の確定申告書」は作成する書類が多く、素人にはハードルが高いため、顧問税理士に作成を依頼するケースが圧倒的に多いです。領収書や請求書などを丸投げして会計データ入力まで依頼する「記帳代行形体」であれば、毎月の顧問報酬として3万円前後、それに加えて年に1度の法人税の確定申告のための「決算書」や「申告書」を作成する「決算料」として最低10万円以上は必要になります。私は自分で決算書や申告書を作成し、作成した書類のチェックを税理士にお願いする形をとっており、日常業務はメールベースで質疑することで税理士報酬を相場より低めに設定してもらっていますが、このようなケースを考えても、自身でファイナンシャルリテラシーを高めておくことは不可欠だと感じています。
まとめ:
自分で稼いだお金を可能な限り手元に残したいと思うのは当然の心理です。個人事業主と法人化を比べた場合に、法人化のメリットは思ったより大きいものです。しかし、そこには法人住民税の課税や税理士報酬などの出費も必要になるため、まずは現在の売上、経費、所得の比率を見る、出張の頻度を洗い直す、法人化した場合の節税効果を自身でシミュレーションしてみることが大事です。
なお、今回は個人事業主か法人化かの二択でお話しましたが、会社員の方が個人事業主への転向を考えている場合には「お金の面で考える会社員のメリットとデメリット」という記事で詳しくお話していますので、こちらも参照してみてください。