個人にとって節税効果の高い制度として紹介されることの多いNISA(ニーサ)とiDeCo(イデコ)ですが、個人事業主やひとり社長が節税対策に活用できる制度は実はまだ他にもあります。今回は個人事業主やひとり社長におすすめの節税対策をご紹介します。
小規模企業共済(掛金控除)
小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員・個人事業主のための積み立てによる退職金制度です。国の機関である中小機構が運営しており、2020年3月現在で、全国で約147万人が加入しています。月々の掛金は1,000円~7万円まで500円単位で自由に設定が可能で、確定申告の際は掛金の全額を所得から控除できます。掛金は加入後も増額や減額が自由にできます。
共済金は、退職・廃業時に受け取り可能で、満期や満額という概念はありません。共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。一括受取りの場合は退職所得扱いに、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。また、iDeCoとも併用可能です。個人事業主の場合、小規模企業共済の掛金上限「月額70,000円」とiDeCoの掛金上限「月額68,000円」を合わせると、年間で165万6,000円まで積み立てることができます。
また、契約者は、掛金の範囲内で一般貸付け、緊急経営安定貸付け、傷病災害時貸付けなどさまざまな事業資金の貸付制度が利用できます。低金利かつ即日貸付けも可能です。
全国国民年金基金(掛金控除)
国民年金基金は、自営業・フリーランスなどの国民年金の第一号被保険者が国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。会社員などの第2号被保険者の厚生年金(老齢厚生年金、企業年金等)部分と同じとイメージしてもらうと分かりやすいと思います。基本は65歳から一生涯受け取れる終身年金で、節税対策とともに老後の生活に備えることもできます。
掛金は月額68,000円を上限に、1口目は終身年金のA型またはB型から、2口目以降は確定年金のI〜Ⅴ型を含めた全7種類の中から自由に組み合わせて選ぶことができます。確定申告の際は、掛金全額を所得から控除できます。iDeCoとも併用可能ですが、iDeCoと同じ枠を利用する制度のためiDeCoの掛金と合算して月額68,000円以下にする必要があります。国民年金基金の年金は、国民年金や厚生年金等の年金と併せて公的年金等控除の対象となります。
全国国民年金基金は申込時の予定利率で掛金が運用される「確定給付年金」のため、申込みの時点で将来受給可能な年金額が確定します。現在(2021年6月)の予定利率は年率1.5%となっています。保証期間のあるA型とI〜Ⅴ型は、年金受給前から保証期間中に本人が亡くなった場合には、掛金納付期間等に応じた遺族一時金が支給されます。遺族一時金については、非課税となります。
経営セーフティ共済(掛金控除)
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先の事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐために作られた制度です。令和2年3月末時点で約51万の企業や事業者等が加入しており、共済金の貸付け実績は、累計で約27万件、約1兆9,000億円となっています。確定申告の際に法人であれば掛金を損金に、個人事業主の場合には経費に算入できます。
掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選ぶことができ、その後も増額・減額ができます。積立上限は800万円で、解約した場合には解約手当金を受け取れます。自己都合の解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば、掛金全額が戻ります。ただし、12か月未満は掛け捨てとなるのでその点は注意が必要です。
経営セーフティ共済に加入中は、無担保・無保証人で共済金の借入れができます。共済金貸付額の上限は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ないほうの金額となります。取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときは、その事業者との取引の確認が済み次第、すぐに借り入れができます。
経営セーフティ共済の解約手当金は税法上、法人の場合は益金の額(収益の額)、個人の場合は事業所得の収入金額となるため、大幅な赤字決算となるタイミングで解約し、赤字と解約手当金を相殺するなどひと工夫することで税金対策ができます。また、法人の場合は返戻金を社長に退職金として支給することで、経費計上しての相殺が可能になります。
企業型401K(掛金控除、運用益非課税)※法人のみ
こちらは法人のひとり社長におすすめな節税対策となります。企業型401Kとは、企業型の確定拠出年金のことであり「iDeCoの企業版」といえるものです。改めて知っておきたい!NISAとiDeCoのデメリットでもお話したように、iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となりますが、企業型401Kも同様です。
iDeCoの掛金の月額上限は職業によって変わり、ひとり社長の場合であれば月額上限が23,000円となります。一方、企業型401Kの月額上限は55,000円のため、年間で66万円の経費計上が可能になります。掛金を役員報酬から削り、会社の経費(福利厚生費)として401Kに充当することで効率的な節税効果が得られるのです。なお令和2年の税制改正により、70歳までの掛金拠出が可能となりました。
企業型401K運用期間中の運用益は非課税であり、最終的にその運用益は退職金という形で受け取ることができます。原則は60歳で受給権を取得して、年金または一時金として受け取ります。受取時も前述の小規模企業共済と同様に、一括受取りの場合は退職所得扱いに、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。
まとめ:
正しく節税することは、新たに収入を増やすことに比べ即効性が高く、条件さえ満たせば誰でも活用できます。上記で紹介したように、老後への準備や会社の資金繰りへの対策をしながら節税にもつながる制度は知っておいて損はありません。また、企業型401Kといった法人だからこそ活用できる節税対策もあります。活用できる制度はきちんと活用して、稼いだお金を効率的に手元に残せるようにしましょう。