「生産性産向上で分析すべき経営指標」とは

政府が推し進める「働き方改革」でたびたび目にするキーワードが「生産性の向上」です。慢性的長時間労働の是正や、少子高齢化や人口減少による人手不足を解消するために、「労働生産性の向上」は日本企業の最重要課題だといっても過言ではありません。また、日本の労働生産性は主要先進7カ国で最も低く、経済状況が悪化しているスペインやギリシャよりも低いのが現実です。日本の労働生産性が低い原因は、ホワイトカラーの生産性の低さだといわれています。そこで、日本企業の大きな課題だといえる労働生産性についてどのような経営指標があるか、まとめてみます。

労働生産性とは?

労働生産性の経営指標は、企業が生み出した「付加価値」を「社員数」で割ることで求めることができます。付加価値とは、企業が取引先から仕入れた製品や提供を受けたサービスをもとに、自社の経営活動によって新たに創出した商品やサービスの貨幣的価値のことを指します。もっと具体的に言うと、生産によって新たに加えられた価値のことです。

付加価値を求める計算式には、「控除法」と「加算法」がありますが、両者の違いは本題ではないため、ここでは「控除法」で考えたいと思います。控除法では、付加価値は売上高から変動費を控除した「貢献利益(限界利益という場合もある)」におおよそ近い値になります。英語では、「Contribution margin」に相当します。付加価値の算出を簡易にするために、どうして限界利益を用いるかというと、貢献利益(Contribution margin)は、売上高から「直接材料費」、「購入部品費」、「外注費」、「間接材料費」といった変動費を控除した値であるからです。貢献利益を求める計算では、売上高から自社で生み出した価値ではない変動費を控除しているため、結果的に貢献利益は自社で新たに生み出した付加価値と近い値になります。そのため、付加価値を求める計算では貢献利益を付加価値に用いることがよくあります。

付加価値の計算式

このようにして付加価値(≒貢献利益)が算出できたら、社員数で割れば労働生産性が求められます。下の式から、労働生産性を高めるためには、社員1人当たりの付加価値額を高めればよいことが分かります。

労働生産性の計算式

流通業(飲食業・小売業・サービス業)に用いる労働生産性向上の経営指標

飲食業や小売業、サービス業の労働生産性を向上させるためには、下のように労働生産性を「1人当たり売上高」と「付加価値率(付加価値÷売上高)」に分解します。小売店であれば、「1人当たり売上高」の代わりに「店舗当たり売上高」を経営指標に用いることがよくあります。外食産業の場合には、「1人当たり売上高」の代わりに「1席当たり売上高」を売上高のベースにすることが一般的です。

流通業の労働生産性指標

このように、労働生産性は業種によって管理しやすい最小単位にまで細分化することが労働生産性管理のためには重要です。

製造業に用いる労働生産性向上の経営指標

製造業では、労働生産性を高めるために、下のように労働生産性を「労働装備率(有形固定資産÷社員数)」、「有形固定資産回転率(売上高÷有形固定資産)」、「付加価値率(付加価値÷売上高)」の3つに分解します。有形固定資産に多額の投資が必要な製造業であれば、有形固定資産回転率を高める一方で省人化を図り、労働装備率を向上させることで労働生産性が高まります。

製造業の労働生産性指標

有形固定資産回転率を高めるためには、不稼働の機械設備を整理する一方で、全ての機械がフル稼働できるだけの受注を獲得することが付加価値向上(労働生産性向上)には重要です。

労働生産性と給与水準

労働生産性を高めたい動機付け要因が経営層に働くことは分かりますが、労働者にとって労働生産性を向上させることで得る対価はどのようなことでしょうか。1つは、労働時間が削減されワークライフバランスが充実するというインセンティブがあります。もう1つは、労働生産性が向上した結果、給与が上がると入った要因も動機付けになります。ただし、労働生産性が向上したからといって、労働分配率を考慮しないで給与を上げることは会社にとってリスクになります。社員の給与を上げるときには、労働分配率も考慮することが大切です。

労働分配率は、「総額人件費」÷「付加価値」で求めることができます。付加価値のうち、どのくらいの割合を人件費に支払っているかを表す経営指標です。付加価値が向上すれば総額人件費を上げても労働分配率は一定に維持できるため、会社の財務面を安定させながら、社員の給与を上げることができます。付加価値を高めることは、労働生産性を向上させるだけでなく、労働分配率を一定に維持しながら社員の給与を上げることができます。

労働分配率の計算式

下の図は、給与水準と労働生産性の関係を表しています。企業にとっても、社員にとっても理想的な状態である、「高生産性」、「適正な労働分配率」、「高給与水準」を実現するためには、社員1人当たり売上高を高め、付加価値率の向上を図ることが必要です。

給与水準と労働生産性の関係

まとめ:

日本企業が直面している生産性を向上させるためには、「社員1人当たりの付加価値の向上」が不可欠です。付加価値を向上させるためには、自社での取り扱う製品のラインナップやサービスメニューの数をやみくもに増やすのではなく、川上から川下まで顧客が求めるニーズにより深く入り込むという高付加価値化の考え方が必要です。それは、顧客生涯価値を高めるだけでなく、給与アップによる従業員満足度も高まるといった相乗効果があります。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。