文系ビジネスパーソンこそ統計学を学ぶべき理由

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理系出身(数理学部、医学部、薬学部など)のビジネスパーソンは基礎科目として統計学を学びますが、統計学がわかる文系出身のビジネスパーソンは多くありません。統計学には数式が多く出てくるため、文系出身のビジネスパーソンにはとっつきにくいと感じるからかもしれません。しかし、実は統計学こそビジネスに精通した文系ビジネスパーソンが習得するととても相乗効果が高い学問なのです。今、ビジネスの現場で統計的手法が注目を集めています。そこで今回は文系出身のビジネスパーソンが統計学を学ぶメリットについてお伝えします。

統計的知見は世界共通のコミュニケーションツール

統計学は応用数学である

統計学は数学的考え方を応用した学問領域です。統計学独自の考え方というのは実はあまりなく、「推定」や「検定」くらいといわれています。統計学の大部分は、数学の「確率」や「微分・積分」、「線形代数」の考え方を用いた応用数学の領域です。このような背景から、統計学は理学部出身の理系出身者には馴染みが深いのです。

統計学は応用数学で形成されていることからも、統計学の知見は世界中どこの国でも通用します。数学は、経営学とは異なり、世界共通の「文字(数学では、数字や記号など)」「文法(数学では、公理や定理など)」「構文(数学では、公式など)」が存在します。そのため、世界中のどの国でも「1+1=?」と尋ねれば、「2」という答えが返ってきます。世界共通のコミュニケーションツールという観点では、統計学や数学は英語よりも普遍性が高いといえます。

統計学は誰でも理解できる学問である

統計学は言語と同じように誰でも理解することができます。一般的に言語には3つの要素が必要だといわれています。それは、「文字」「文法」「構文」の3要素です。統計学にも同じように「数字や記号」「公理や定理」「数式」があります。私立文系出身者の中には数式が出てくる統計学に苦手意識を示す人が多くいますが、統計学の3つの要素を段階的に学ぶことは、言語を学ぶこととあまり変わらないのです。言語が誰でも使えるようになるのと同じように、統計学も誰でも理解することができるのです。統計学を理解するためには上に挙げた3つの構成要素を、順を追って理解することが大切です。

意思決定に「経験」や「勘」、ロジカルシンキング以外の判断基準を持つ

統計的知見が乏しいビジネスパーソンは、意思決定をする際にどうしても「過去の成功体験」や「勘」に頼ってしまいます。他に判断材料がないので当たり前といえば当たり前かもしれません。統計学を学ぶことの意義の1つは、意思決定の基準が増えることです。単に判断基準が増えるだけでなく、意思決定の精度も高まります。

もちろん、「過去の成功体験」や「勘」でビジネスが成功に導けるのであれば、統計的分析をする必要はありません。時間と費用を消費するだけで意思決定の精度は上がりません。しかし、世界はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高い時代)な経営環境が強まっている現在では、「過去の成功体験」や「勘」に基づいた意思決定だけでは不確実性が高く、データに基づいた意思決定を行う競合に勝てないことも事実です。

最終的に可視化したデータの分析結果を解釈するのは人間ですから、「過去の経験」や「職人的勘」は統計的分析結果を解釈するための重要な判断材料にはなります。しかし、これは意思決定を始めから「過去の成功体験」や「勘」だけで行うこととは全く意味合いが異なります。

統計的知見はステークホルダーを納得させる武器

ビジネスパーソンには、職場の上司や関連部署のキーパーソン、クライアントや業務提携先、株主や金融機関など多くのステークホルダーを納得させることが必要です。相手を説得するにはプレゼンテーションスキルやロジカルシンキングも大切ですが、プレゼンテーションスキルやロジカルシンキングは、統計的知見に比べ主観的な嗜好が入りやすいといえます。例えば、日本的な起承転結を備えたプレゼンテーションが好まれるのか、Why→How→Whatの順で構成される欧米的なプレゼンテーション(下のYouTube動画)が好まれるのかは、オーディエンスの嗜好に大きく左右されます。

一方で、統計的知見にはほとんど主観的な余地はありません。データを分析した条件やプロセス、手法などについて妥当性が高いことを説明できれば、可視化された分析結果についてはほとんど反論の余地はありません。もっとも、日本ではステークホルダーに統計的知見があまりないため、データを見せながら統計的な「推定」や「検定」のプロセスを説明しても、相手からは質問が出ることはほとんどありません。そのため、統計的知見を用いるとステークホルダーからの質問も少なく、説得がとても楽です。

統計学を活かせるのは経営について知見がある人

下の図表は、データ分析を行う一般的なプロセスを示したものです。このプロセスにおいて統計学の知識を主に使うのは、「4.データ分析」と「8.効果検証」の2つしかありません。データを分析するまでのプロセスでは、経営や事業についての知見がないと行えないプロセスがほとんどです。そのため、例えば、東京大学の大学院で統計学を学んでいた大学院生をデータサイエンティストとして採用しても、知見を活用できるプロセスは「データ分析」と「効果検証」に限られてしまいます。ビジネスについての知見がないためデータを分析しても「ビジネスを成功させる影響度が高い要因が何であるか」を分かっていないため、期待して採用したのに的外れな分析結果しか出てこなくて落胆したという話を聞きます。

一般的なデータ分析プロセス

データ分析にいくら優れていても、ビジネスについての知見がなければ、「目標設定」、「考察」、「仮説立案」、「実行」、「リアクション」が実行できず、データ分析担当者としての役割が果たせません。

多くの企業がデータ分析部門を立ち上げ、データサイエンティストを確保しようとする場合、統計学に精通した人財を採用しようとする傾向があります。しかし、「統計学」や「データ解析するためのプログラミングスキル」を持ったエンジニアを採用しても、経営やビジネスについての知見がないため、データ分析のPDCAサイクルが回らないという話をよく聞きます。このような場合、データサイエンティストとして採用したエンジニアに事業について学んでもらう必要が発生しますが、ビジネスに精通するには管理職を育てるのと同じくらいの長い年月が必要になります。

一方で、すでにビジネスに精通したビジネスパーソンに統計学を学んでもらう方が、データ分析部門を立ち上げるには早く機能します。「統計学」や「データ解析するためのプログラミング」は言語と同じような一定のルールがあるため、段階的に学べば1年で事業運営におけるデータ分析で必要な統計的知見を得ることができます。特に、事業責任者や経営コンサルタント、またMBAホルダーや中小企業診断士であれば、「会社のビジョンや経営理念」、「経営戦略や事業戦略」、「売上拡大のマーケティング施策」、「財務諸表の課題」、「ファイナンスに基づいた投資決定」については十分な知見を持っていますので、データ分析プロセスの大部分を実施できるのです。このような背景から、ビジネスに精通している人財が「データ分析」や「効果検証」を行うために「統計学」や「プログラミング」を学ぶ方が、データサイエンティストとして即戦力になるといわれています。

一般社団法人データサイエンティスト協会と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が定義する、データサイエンティストに求められる具体的なスキルセットについては別記事「データサイエンティストに必要な3つの能力とは」で詳しくまとめてありますので、こちらもご参照ください。

まとめ:

統計学に強いビジネスがわかる文系ビジネスパーソンには希少価値が高く、インターネット企業を中心に人財の需要が高まっています。あるスマートフォンゲーム会社では、「戦略コンサルタントの経験」「統計の知識」「業界の知識」「広告・マーケティングの知識(尚可)」の要件に当てはまる人財を報酬月200万円以上で採用しています。このような案件が今後はもっと増えてくるのではないでしょうか。統計学に精通した人財が上の3つの知見を得るよりも、文系ビジネスパーソンが統計学の知識を得る方がよほど費用対効果が高く、即戦力になります。

さまざまなビジネスの現場でデータサイエンスがどのように役立つかについては、別の記事でお話していますので、そちらもぜひご覧ください。

ビジネスの現場におけるデータサイエンスのメリットについての記事はこちら
・マーケティングサイエンス編
・経営コンサルタント編
・Web系エンジニア/システムエンジニア(プログラマ)編

私たちは20代から50代のビジネスパーソンに向けて、パラレルキャリア研究会というコミュニティーを運営しています。当研究会はデータサイエンスについても互いに学び合う場を提供しています。

私達と一緒に学んでみたいという意欲のある方、データサイエンスの自学自習に少しでも興味がある方は、お気軽にこちらからお問い合わせください。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。