マーケティングだけじゃない!ビジネスや自己実現にも役立つ行動経済学

マーケティングだけじゃない!ビジネスや自己実現にも役立つ行動経済学のアイキャッチです

マーケティングの分野において「経済学と心理学のハイブリッドである「行動経済学」をベースにした手法が注目されているという点については「AIが完璧なマーケティング戦略を立てられる日は来るかでお話しました。

一方で、この人間の「非合理的」な部分にフォーカスした学問である「行動経済学」の活用は、マーケティングの分野だけには留まりません。会社でのチームマネジメントや自己実現の場面においても有効です。今回は、マーケティングから少し離れた別の分野で、行動経済学の理論を応用できるケースについてお話します。

ビジネスシーンに使える行動経済学の理論3つ

・同じ内容でも表現を変えてやる気を出させる【フレーミング効果】

例えば「このプロジェクトが成功する可能性はわずかだ」と言われるのと、「このプロジェクトが成功する可能性はゼロじゃない」と言われるのとでは、内容はほぼ同じでも異なる印象を受けると思います。「わずかだ」というマイナスの表現を「ゼロじゃない」とプラスの表現に言い換えるだけで印象は大きく異なるものなのです。このように、表現方法の変化によって文全体の印象も変わることを「フレーミング効果(文脈効果)」といいます。その文脈に固着して合理的な判断ができなくなる、固着性ヒューリスティックによって起きる現象です。部下を励ましたり、チームのやる気を引き出したりしたい時には、表現を変えたり伝え方そのものを変えてみましょう。

・自ら業務にコミットさせ愛着をもたせる【イケア効果】

チームでのプロジェクトに協力的でないメンバーがいる場面では、敢えて当人にプロジェクトの重要な役割を任せてみることが有効な場合もあります。この場合に関わってくるのが「イケア効果」です。イケア効果とは、自分が苦労して手を加えたものに対して愛着を抱き、実際の価格以上に価値を感じる現象のことで、IKEAの家具やディアゴスティーニなどのパートワークが人気の理由とされています。仕事もこれと同様に、自分自身が企画立案をしたり作成したものには愛着ややりがいを感じます。上司からの指示になかなか従おうとしないメンバーは、敢えて積極的に巻き込み仕事にコミットさせることで「イケア効果」を狙ってみましょう。

・長期目標を達成するまでの細かな締め切りを設ける【時間的選好/現在バイアス】

「我々がいつも締切ギリギリで残業してしまうのはなぜか」でも触れましたが、人間には将来よりも現在を重視する「時間的選好」というものがあります。人は現在に近い効用ほど大きく感じ、先のことになればなるほど効用を小さく感じるため、例えば客先に提出する資料が出来上がっていないのに、友人からの飲みの誘いに応じてしまうなど、将来的に得られる大きなメリットよりも、今すぐに得られる楽しみを選んでしまう傾向があります。完成度の高い資料を作成することで評価されるかもしれないという将来的な効用よりも、この未来にある満足よりも、目の前の満足を優先させてしまうという心理傾向を「現在バイアス」と呼びます。もし締切が2週間先だった場合には、「1週間でここまでやる」など、より細かく期限を区切りることで、現在バイアスの影響を受けにくくなり、その仕事の優先順位が上がります。

自己実現に使える行動経済学の理論3つ

・新たな習慣を身につけたいときはまず一定期間続けてみる【現状維持バイアス/サンクコスト効果】

早起きしたい、毎日運動や勉強の時間を確保したいなど、これまでになかった新しい習慣を身につけたいと思いながら、数日で挫折した経験のある方は少なくないと思います。これには「現状維持バイアス」という、変化よりも現状を維持することを望む傾向が関係しています。そうであればこれを逆手に取って、まず一定期間はとにかく身につけたい習慣の実践を目指しましょう。最近の研究では、新しい習慣が身に着くまでに平均して66日必要なことが分かっています。決めた時間に起きたらその後は何もしなくてもOK、机の前に座りさえすれば勉強しなくてもOKなどハードルを下げ、新たな状況に身を置くことに専念します。すると、今度は新たな習慣が普通となり、その現状を維持し続けたくなるようになります。また、「せっかくここまで続けたからには続けないと損をする」と考える「サンクコスト効果」も期待できます。

・目標を周囲に宣言することでやる気を出す【社会的選好/宣言効果】

私達は自分の利益だけでなく、他者の利益や言動も考慮するという「社会的選好」をもつ特徴があります。自身の損得に関わらず、常に他人を意識するようにできているのです。これを利用して、ダイエットや資格試験合格などの目標を周囲に宣言したり、SNSなどで多数に向けて意思を表明するのも有効な手段です。敢えて外部に発信することで「言ったからにはやらなきゃ」「また報告するためにやらなければ」という意識が働きます。また、できなかった場合のペナルティを儲けて、友人に誓約するのも手です。

・メタ認知を意識することで、自己を過信しない【ダニング=クルーガー効果】

「ダニング=クルーガー効果」とは認知バイアスの一種で、能力の低い人ほど自分を過大評価するというものです。能力がない人ほど自分の能力や立ち位置、得意不得意を正しく認識することができず、自信過剰を引き起こし学ぶ姿勢が失われます。一方で、優秀な人ほど自身の能力を過小評価する傾向があることも分かっています。自分自身を客観的に認知する能力を「メタ認知(英:Metacognition)」といいますが、これを意識することで自身に不足しているもの、劣っている部分を冷静に判断できるようになります。自分が成し遂げたいと思う事柄について、自分の未熟さや能力不足を思い知るのは楽しいことではありませんが、このバイアスにとらわれずに客観的に自己を見つめ、研鑽していくようにしたいものです。

まとめ:

ご紹介したように、チームメンバーにやる気を出してもらいたい時や、長期目標を達成するために有効な手段を考えたい時、また新たな習慣を身につけたい時や自己研鑽をしたい時など、「経済学と心理学のハイブリッド」である行動経済学の考え方が役立つシーンはさまざまです。行動経済学の理論をうまく取り入れながら、よりよい自身のありようを追求していきましょう。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。