「自分の意思で決断している」は本当か?日常に潜む行動経済学

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私達が物をやサービスを購入する際、当たり前ではありますが「自分の意思で購入した」と考えます。しかし、果たしてそれは事実でしょうか。AIが完璧なマーケティング戦略を立てられる日は来るかの中でご説明したように、「人は必ずしも合理的に行動をするわけではない」生き物であり、「直感」と「熟考」という2つのモードのうち、基本的にはこれまでの経験を基に素早く答えを出す直感を使っています。ということは、思い違いや勘違いをする余地があるということです。

このような人間の「非合理的」な部分にフォーカスした学問が「行動経済学」であり、現在あらゆる場面でこの「行動経済学」の考え方をベースにしたマーケティング手法が取り入れられています。今回は私達の日常生活で垣間見られる、行動経済学をベースにしたマーケティング手法をご紹介します。過去に1度は目にしたことがあるものばかりだと思いますので、ご自身の経験を振り返りながら、本当にその時「自分の意思で購入した」と言えるかどうかを考えながら読み進めてみてください。

「『顧客満足度90%!』に信頼感を覚える」=フレーミング効果

「満足度90%」と、「10人に1人は満足できない」は同じ内容ですが、前者には好印象を、後者には不安を抱く人が多くなります。これは全く同じ事柄であるにも関わらず、言い方や書き方が異なることで受け取り方が変わる「フレーミング効果」と呼ばれるもので、その結果として取りうる選択肢も変化します。自分の考えや直前に見聞きしたものに固着することから勘違いを起こす「固着性ヒューリスティック」のひとつです。

「『通常価格2980円が今だけ1490円!』と言われてお得だと感じる」=アンカリング効果

これは先にご紹介したフレーミング効果のひとつで、提示された数値や情報がアンカー(錨)となって、それに影響を受けて判断してしまう「アンカリング効果」の例です。実際に販売している価格の近くに希望小売価格や通常価格が書かれているケースがこれに相当します。例文の場合には、「通常価格の2980円」がアンカーとなり、その価格の妥当性はさておき販売価格の1490円を安く感じてしまいます。

「高級車やブランド物のバッグに人気が集まる」=ヴェブレン効果

もし、人が何時も合理的な判断をするのであれば、商品の実用的な効用以上に高値の何千万円もするような高級車や、何百万円もするブランド物のバッグを手に入れることは理に適っているとは言えません。しかし、これらの商品に人気があるのは「ヴェブレン効果」によるものです。「ヴェブレン効果」とは、高い価格やブランドのイメージで消費者の自己顕示欲がくすぐられて需要が増加するというもの。実用性だけではなく、特別感によってその商品を手に入れることに価値を見出しているのです。

「980円や1980円という数字を見て安く感じる」=端数価格

私達が値段を見た場合、一番大きい桁の数字が価格全体の印象を左右するという結果があります。この理由は、私達は価格を上の桁の数字から読んでいくためです。1980円も本当はほぼ2000円であるにも関わらず、まず目に入ってくる数字が「1」のため、1000円台という印象が強くインプットされます。また、1000円札で支払った際に20円のおつりが戻ってくるのもお得感につながります。これら980円や1980円といった端数の価格は、1000円や2000円といったキリの良い数字と比較して安く感じやすいという「端数価格」と呼ばれます。

「松5000円、竹4000円、梅3000円の場合に真ん中の竹を選ぶ」=おとり効果(松竹梅効果)

例えばラーメン屋のスープに「濃いめ」「ふつう」「薄め」の3種類があった場合に、多くの人が「ふつう」を選びます。「濃いめ」「薄め」の2択ではどちらにするかを迷いがちでも、3択になると真ん中の選択肢が選ばれやすくなるのです。これは、極端なものを回避する「極端の回避効果」が関係しています。例のような場合には松だと贅沢すぎる、梅だと寂しすぎるということで、多くの人が竹を選びます。このように選んでほしい選択肢を魅力的に見せることを「おとり効果」といいます。

「好きな芸能人の登場するCMの商品を買ってしまう」=ハロー効果

人は、目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴についての正確な評価を怠ってしまいがちな側面があります。こうした現象は「ハロー効果」と呼ばれ、前述の固着性ヒューリスティックの1つです。「ハロー(halo)」とは後光のことを指し、対象物に対して後光を感じることで対象物の印象が歪められてしまう状態を指します。そのほか、ある分野の専門家が専門外のことについても権威があると感じてしまうことや、外見のいい人を信頼できると感じてしまうことが挙げられます。

「『数量限定、残りわずか』と言われると欲しくなる」=希少性の原理

ネットショッピングでもオフラインの買い物でも、「数量限定」「残りわずか」などの言葉をよく目や耳にします。これは「希少性の原理」という、数が少ないものをよいもの思い欲しくなるという心理を巧みについています。また、人はある物の希少性が高いと感じると、それが手に入らなくなるという可能性を想像し、「好きな時に手に入れられる自由」を奪われてしまったように感じます。すると、他者からの指示などに対して、敢えて逆の行動を起こしたくなる心理状態「心理的リラクタンス」が発生し、「自分には手に入れる自由がある」と確認したくなるため欲求が高まると言われています。

人は感覚(直感)で買い、理屈で納得(正当化)する=認知的不協和

これまでの例で、人がどれだけ理屈ではなく直感で購入を決断しているかがお分かりいただけたかと思います。人が物を買う理由の95%は「無意識の決断」とされており、理屈で後付しすることで自らの購入を納得させているのです。そのため、商品やサービスを売る側は、まずは顧客に直感的に購入したいと思わせる「動機付け(感覚)」を提供し、その後で商品やサービスから得られるメリット(理屈)を説明し購入を後押しすることで、顧客の認知的不協和の解消(=購買)につなげやすいと言われています。

まとめ:

人を思い通りに誘導できる!?注目を集める「ナッジ理論」とはでもお伝えしましたが、私達は自らが主体となって理論的に物事を決断しているようで、実はその大部分を直感に頼っているのです。逆に言えば、ご紹介したような行動経済学に基づいたテクニックを知っておくだけで、自身に有利なマーケティングを進めることができるとも言えます。今現在、売りたいサービスや商品がある人はもちろん、自分自身をアピールしたいという場合にも行動心理学は要チェックの分野です。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。