我々がいつも締切ギリギリで残業してしまうのはなぜか

我々がいつも締切ギリギリで残業してしまうのはなぜかのアイキャッチです

得意先へのプレゼン資料作成や会議の資料準備など、余裕のあるスケジュールを組んでいたはずなのに、気づけば締め切り直前にバタバタと準備に追われるという事態は、多くの方が経験済みだと思います。これを「スケジュール管理の甘さ」「意志の弱さ」と片付けることもできますが、人間に特有の考え方の「クセ」が関係しているという考え方もあります。

今回は「我々が締め切りギリギリになって仕事に取り掛かるのはなぜか」という点について、さまざまな視点から見ていきたいと思います。

手持ちの時間やお金は際限なく使ってしまう!?「パーキンソンの法則」

ビジネスの分野で有名な考え方として「パーキンソンの法則(Parkinson’s law)」というものがあります。これは、もともとは英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが著作『パーキンソンの法則:進歩の追求』の中で提唱した法則であり、以下の2つがよく知られています。

第一法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。
第二法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する。

冒頭の例はまさにこの「第一法則」の体現です。もう少し詳しくそれぞれについて見ていきましょう。

人は与えられた時間を全て使い切ってしまう

第1法則を簡潔に言い換えると、「人間は時間を与えられると、それを全部使い切ってしまう」ということです。例えば「30分で終わるはずの会議に1時間を確保していると、1時間ぎりぎりまでかかってしまう」ということであり、「3日で終わるはずの仕事の締め切りを1週間先に設定していると、1週間ぎりぎりまでかかってしまう」ということです。

これは、期限を最大限に使って良いものを作り上げようという意識が働くためだと言われています。この意識自体は一見すると素晴らしいことなのですが、些細な箇所が気になって細部にまでこだわり出したり、必要以上に見栄えを良くするなど余計な作業が増える結果にもつながってしまいます。

人は将来よりも現在の効用を重視する

パーキンソンの法則以外にも、行動経済学をベースとした考え方もあります。人間の「非合理的」な部分にフォーカスした学問が「行動経済学」であるというお話はAIが完璧なマーケティング戦略を立てられる日は来るかでご説明しました。そして、その中で、我々は過去の経験などを参考にして瞬時に決定を導き出す意思決定のプロセス「ヒューリスティック」を多用するものの、ヒューリスティックは直感ベースのため間違いを起こすこともあるとお伝えしました。

同記事では触れませんでしたが、ヒューリスティックには「時間的選好」というものもあります。時間的選好とは、人間が将来よりも現在を重視する傾向にあることです。人は現在に近い効用ほど大きく感じ、先のことになればなるほど効用を小さく感じます。そのため、将来的に得られる大きなメリットよりも、今すぐに得られる楽しみを選んでしまう傾向にあります。

例えば、客先に明日提出する資料が出来上がっていないのに、友人からの飲みの誘いに応じてしまうのはこれが関係しています。完成度の高い資料を作成することで評価されるかもしれないという将来的な効用よりも、友人と飲みに行く楽しさという目の前の効用を大きく評価してしまうのです。このように現在の効用を過大に評価することを「現在バイアス」と呼びます。人は、今すぐ手に入る効用に大きな価値を見出しているのです。

脱!締切ギリギリの対処法

これらの視点を踏まえ、締切ギリギリまでタスクを引っ張らないための対処法をご紹介します。

与えられた時間を全て使い切ってしまう
→前倒しの締切を設定して生産性を高める
→仕事を細かいタスクに分けて、それぞれに締切を設定する

与えられた時間を全て使い切ってしまうのであれば、自分で締切を前倒してしまいましょう。可能であれば「少し余裕がないくらいの期限」を設定するのがおすすめです。例え本来の締切までに余裕があったとしても、こうすることで生産性を高めることができます。

また、仕事を細かいタスクに分けてそれぞれに締切を設定することも有効です。仕事そのものを一つの大きなプロジェクトとして捉えるのではなく、細かい仕事の集合体として捉え、それぞれに締切を設定してしまいましょう。こうすることで、それぞれにパーキンソンの法則が働いたとしても、全体としては余裕を持って進められるはずです。タスクを1つずつ着実に終えていくことで、全体の作業効率もアップします。

将来よりも現在の効用を重視してしまう
→期限を区切ってマイルストーンを設定する

上記の対策と重なる部分もありますが、もし締切が2週間先だった場合には、「1週間でここまでやる」など、より細かく期限を区切りましょう。通常であれば現在バイアスが働いて先延ばしにしてしまうところ、期限をより近く感じることで、自ずとその仕事の優先順位が上がります。

おまけ:人は収入が増えた分だけ支出も増える

残業のお話とはやや内容が異なりますが、せっかくなのでパーキンソンの第二法則についても触れておきたいと思います。「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」というのは、簡単に言えば「収入が増えた分だけ支出も増える」ということです。年収300万円のサラリーマンが転職して年収400万円になった場合を考えてみましょう。増加した分の年収100万円を貯金に回せると思いきや、実際のところは「その分支出も増え、お金が全く貯まらない」という結果が一般的です。人間は収入が増えても、その分で衝動買いをしてしまったり、生活のレベルそのものをアップさせてしまったりと、他のことに使ってしまう傾向にあるのです。なお、これを防ぐためには給与口座から一定額を自動的に貯蓄するサービスを利用するなど、最初から増加分を「なかったもの」として扱うのが有効です。

まとめ:

締切間際の残業や徹夜は心身ともに負担が大きいもの。しかし避けたいと思っても、気合いだけではどうにもならないこともあります。一方で、これらが人間特有の心理や行動パターンからくるものとを理解できれば、対処が可能です。また、これらの対処法は試験勉強など長いスパンで取り組むべき課題についても有用です。人間の考え方のクセや心理を理解することで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。