人生100年時代や第4次産業革命を背景に、注目が集まりつつあるリカレント教育(学び直し)。社会人にとってのリカレント教育の重要性については希少性を高めたい社会人に「学び直し」が必要な理由でお話してきました。
一方で、社会人の「学び」と聞いて「資格取得」を思い浮かべる方も多いと思います。現在、日本において資格試験は国家試験・民間試験を問わず数多くあり、資格取得は根強い人気があります。しかし、資格の取得は本当に社会人の市場価値を高めることにつながるのでしょうか。
「資格取得」に走りがちな日本人
希少性を高めたい社会人に「学び直し」が必要な理由でもお話したように、2016年に実施した「平成28年社会生活基本調査」によれば、社会人の勉強時間は平均して6分とされています。この結果だけを見るとかなり少なく感じますが、これは全く勉強をしない人と本腰を入れて勉強している人の平均値のため、習慣的に学んでいる人だけを見た場合には、もう少し長い時間を費やしていると考えられます。
日本は「教育→仕事→引退」という一方向のライフコースが浸透していることから、社会人の「学び」について意識が低いという課題はあるものの、この状況においても学んでいる社会人は一定数います。しかし一方で、日本人は「学び」の方向性をやや見誤っているのではないかと思う部分もあるのです。その分かりやすい例が「資格」です。
社会における希少性を高めることを考えた場合に、資格取得を選択肢に入れる方も多いでしょう。中には「資格マニア」と呼ばれるような、1つの資格を取得した途端に次の資格の勉強を始めるような方々もいます。これについては趣味や生涯学習という視点ではもちろんありだと思いますし、そのこと自体を否定するつもりはありません。しかし、リカレント教育という視点で見た場合には取得した資格が実務に活かされず、資格を持っているだけの状態で終わっています。「学び」だけで終わってしまい、もはや資格の取得自体が目的になってしまっているのです。このような方は実際のところ割と多く、私の周りにもいます。この背景にはやはり日本人がもつ「学びと実用性は別」という意識があることが考えられます。
資格取得はコスパが悪い!
私も資格の学校で講師をしており、決して資格の取得自体を否定するつもりはないのですが、資格取得はコストパフォーマンスが悪いです。資格にもピンからキリまであり、数ヶ月の自学自習もしくは通信教育で完結するものから、「税理士」「会計士」など資格取得までに数年を要するものもあります。
しかし、日本の資格に共通して言えることは、日本の中でしか通用しないため市場が非常に狭いということです。狭い上に先人達も長寿ですから、経験のある方々が幅を利かせているという状態にあります。そして資格になっている時点でコモディティ化しているため希少性は低く、AI技術の進化もあり報酬額は今後ますます減少していきます。
さらに言えば、資格試験の問題には「答え」があります。採点結果について物議を醸さないような明確な正誤がある分野でないと、資格の対象にはなりません。これはつまり、資格の対象になる分野はパターン化・マニュアル化ができる分野だということあり、そのため将来的にはAIなどで自動化されやすく、人間がやる必要があまりない分野であるとも言えます。この視点からも希少性はなく、資格取得までに必要とされる時間や労力を考えると、決してコストパフォーマンスがいいとは言えません。これらのことを知ったうえで資格取得を目指すのであれば別ですが、「とりあえず資格を取ろう」という動機で勉強を始めるのはおすすめできません。
「何のために学ぶか」を先に考える
先程も申し上げたように、日本人の多くが「学びと実用性は別」という意識を持っています。学んでいる人自身にもそのような傾向があるため、取得した資格を実務に活かさず、資格取得そのものがゴールで終わってしまうのです。
一方で、欧米はなどではその感覚がなく、職業上必要になったことを自ら学び直すという考え方が主流です(リカレント教育)。最初から「学びを実用性に結びつけるためにはどうすればいいか」という視点で学んでいるため、「学んではみたものの結局実務に活かせない」という状態は、勉強を途中で投げ出さない限り起こりえません。資格取得を考えた場合にその先のビジョンが浮かばない場合は、学ぶ目的が明確になっていない可能性があります。学ぶことがゴールではなく、あくまで実務に活かしてこその学びです。「何のために学ぶか」という視点は非常に大切です。
知識を実務で活かしてこそ市場価値が上がる
繰り返しになりますが、これまでのお話は資格取得自体に意味がないということではありません。重要なのは知識を学んだ後で、それを必ず技術やスキルに結びつけるということです。資格試験勉強のための参考書はありますが、業務についてのマニュアルはなく、必ずしも正解があるとは限りません。そのため資格取得のために得た知識を実務に生かし、経験を積みながら自分流のスキルや技術に昇華してこそ希少性につながるのです。実務を通してしか学べないことは数多くあります。そのため、知識をスキルや技術に結び付けられなければ、資格取得だけをしてもあまり意味がありません。
日本では大学や大学院で学ぶことの代替として資格取得が捉えられているように感じます。日本では「教育→仕事→引退」のライフコースが一般的であるため、ひとたび社会人になった後は大学での学び直しという選択肢がなく、その代わりに資格取得を考えてしまいがちです。しかし、大学の学びはスポーツで言えば腹筋や背筋といった基礎体力づくりと同じです。スポーツ選手にとって基礎体力の向上が重要であるように、仕事の場においても基礎を身につけている人が実務をやるのと、基礎を全く知らなずに実務だけをやっているのでは、伸び代が違います。基礎を身に付けずに実務だけをやっている人は、成長の途中で限界がきてしまうでしょう。そのため、欧米では社会人が大学や大学院で積極的に学び直しを行っているのです。学びと実務が分断された日本の状況は好ましくない状態です。資格取得にせよリカレント教育にせよ、学んで得た内容を実務でアウトプットすることは非常に大切です。
まとめ:
日本では社会人の希少性を高めるための方法として資格取得が人気ですが、資格の有無だけでは希少性に結びつきません。そこで学んだ知識を自身のスキルや技術に落とし込んでこそ、自身の希少性が高まるのです。資格取得での学びを実務に活かす意識をもつことが重要です。
一方で、スキルや技術は非常に学びにくいため、パラレルキャリア(複業)などでの業務を通じて学ばないとなかなか難しいという側面があります。私は社会人が学んだ内容をアウトプットする実践の場としてパラレルキャリアを重視しており、そのため「パラレルキャリア研究会」というコミュニティを立ち上げました。学校に限らず学んだ内容を仕事を通じてアウトプットするパラレルキャリアの実践に向け、メンバー達と日々能力開発に取り組んでいます。
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