希少性を高めたい社会人に「学び直し」が必要な理由

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年功序列制度が崩壊しつつある昨今、30代から50代のビジネスパーソンにとって、新たな分野での能力の向上を図る「能力開発(キャリア開発)」は非常に重要です。この能力開発に欠かせないのが自学自習も含めた学習ですが、日本では社会人の「学び」に関する意識が低いのが現状です。ましてや、社会人が大学や大学院で「学び直す」こと自体にあまりなじみがないと思います。今回は日本で社会人の学習意識が低い理由について、またなぜ社会人にとって「学び直し」が必要なのかについて改めてお話します。

日本では「教育→仕事→引退」のライフコースが一般的

日本では、教育を終えてから就職し、定年まで働いて引退する「教育→仕事→引退」という3ステージのライフコースが一般的です。これはたいていの場合、一方向に進み前の状態には戻らない「ウォーターフォール型」で考えられており、「教育」は仕事の前段階として捉えられる事が多いです。そのため、日本で「大学生」「大学院生」は社会人になる前段階、半人前の存在と捉えられる傾向にあります。

実際に、日本では社会人になってから教育を受け直す人の割合は低く、成人の進学率を国別に見てみると、2015年時点での25歳以上の「学士」課程への入学者の割合は2.5%(表1)、30歳以上の「修士」課程への入学者の割合は12.9%(表2)にとどまっており、経済協力開発機構(OECD)の平均を大幅に下回っています。

表1:高等教育機関における25(30)歳以上入学者割合の国際比較 出典:高等教育の将来構想に関する参考資料(文部科学省)

表2:高等教育機関における25(30)歳以上入学者割合の国際比較 出典:高等教育の将来構想に関する参考資料(文部科学省)

一方で、欧米では社会人になってからも大学や大学院で学び直しをしている人が多いです。私も社会人になってから海外の大学院に留学しましたが、アメリカなどでは大学の1、2年生を終えた時点で、一度社会人になって経験を積む人も珍しくありません。そして、5年間など一定の期間を経た後で3、4年生の課程を終えます。そもそも大学は18歳から22歳の間に行くものだと思われていないのです。このように誰もがストレートに大学や大学院を卒業する環境ではなく、学生と社会人という立場がミックスしている状態であるため、会社で仕事をしながらパートタイムで大学や大学院などで学ぶことも特殊なことではありません。欧米では40代以上の世代の方々も大学に通っています。社会人経験を経た後で、必要があれば再び大学で学び直すという感覚なのです。

それと比べると、日本では社会人になってから大学や大学院に通うとなると「変わり者」として扱われることが多いです。先程も申し上げたように、日本では「教育→仕事→引退」という流れが一般的だからです。一方、欧米ではこうのようなウォーターフォール的なライフコースの感覚がないため、社会人と学生を行き来したり、同時並行したりということが当たり前です。そのため、日本のように学生と社会人を比べた際に「社会人のほうが社会的な立場が上」といった感覚もなく、 日本のように社会人が博士課程に進むと聞いて「何になるんだ」と言われることもありません。むしろ「すごいですね」と言われるほどです。

これと同じ話でいえば、やや古いですが総務省統計局が2016年に実施した「平成28年社会生活基本調査」では、社会人の平均勉強時間は6分とされています。この結果からも「社会人は仕事さえ頑張っていれば勉強なんかする必要がない」という意識が垣間見えるように思います。6分というのは勉強をする人と全くしていない人の平均ではあるものの、あまりにも少なく感じます。また、ビジネス誌「プレジデント」のアンケートによれば、年収が高い人ほど勉強しているという傾向があると言われています。

「人生100年時代」における学びのマインドセットとは

これまでお話したように、日本では学校での勉強を終えた後で社会人になるため、「学びと実務は別物」と考えられてしまっています。そのため、社会人になった後は学ぶという意識や機会がなく、30年から40年程度アウトプットをし続ける状態になっています。

しかし、人生100年時代とも言われる今の時代にこの考え方は合いません。特に今は終身雇用制度自体が変化しているので、新卒として入社した会社でずっと勤め上げる人は10人に1人もいないでしょう。転職の際に重要になるのは市場価値、つまりご自身の希少性です。日本では年功序列制度が残っているため、年齢が上がるにつれて転職のハードルが上がり、私のような40代になると、転職しようと思っても苦戦することが多いです。しかし40代の人であればあと30年程度は働かなければなりません。このような状況にあって何も学ばない状態では、事態は厳しくなる一方です。

それゆえ、学校教育から一旦離れた後もそれぞれが必要なタイミングで学び直し、仕事で求められる新たな能力を身につけ研鑽し続けることがますます重要になっていきます。社会人が自身の希少性を高めるには、ウォーターフォール型のライフコースから脱却し、自らの意思で学び直すマインドが求められるのです。そこで重要となってくるのが「リカレント教育」という概念です。

欧米で主流となっているリカレント教育とは

「リカレント教育」とは、義務教育期間や大学で学んだ後に、「教育」と「就労」のサイクルを繰り返す「教育制度」のことを指します。「リカレント(recurrent)」とは、「周期的に起こる、再発する」を意味する英単語であり、元々はスウェーデンの経済学者・ゴスタ・レーン(Rehn, G.)が提唱し、1970年代にOECDで取り上げられたことで、世界的に知られるようになりました。ここで重要なのは、リカレント教育とは生涯学習とは異なるという点です。

・生涯学習…学校などでの勉強に限らず、教養を深めるなどお金を稼ぐ目的以外のことも含む「豊かで充実した人生を送るための学習」という広義の学習
・リカレント教育…職業上必要な知識や技術の再取得

要するに、リカレント教育とは労働市場における人材価値を高めるために社会人が学び直すことを指します。高校や大学で学んだ内容は時の経過とともに古くなってしまうため、必要に応じてアップデートをするのです。欧米ではこのリカレント教育という考え方が浸透しているため、先に申し上げたとおり社会人の進学率が高いのです。

学びと実務を結びつける場としての「パラレルキャリア」

日本でも社会人の学びに対する意識も徐々に変わりつつありますが、まだまだリカレント教育に対する認知は低いです。そしてさらに言えば、私はリカレント教育で得た知識を実務としてアウトプットし研鑽する場も必要だと思っており、そのため「パラレルキャリア」という概念が重要だと思っているのです。

パラレルキャリアについてはなぜ、パラレルキャリアが注目されるのか。で詳しくお伝えしていますが、もともとは経営学者のP・Fドラッカーが、1993年に出版された「明日を支配するもの(邦題)」の中で提唱した言葉で、「本業を持ちながら新たなのキャリアを築くこと」であり「複業」と訳されています。

私は、リカレント教育は高等教育機関や自学自習を通じて知識や理論を「学ぶ」ことであり、この学びをもう1つの本業に繋げる能力開発がパラレルキャリア(複業)だと考えています。自分の本業ではないもう一つの軸を作り、学んだ内容を仕事(パラレルキャリア)を通じて実践し、スキルアップや能力開発をすることが理想的なのです。

まとめ:

日本では「教育→仕事→引退」というウォーターフォール型のライフコースが根強く、それゆえ社会人の学習意欲は低いですが、人生100年時代においてはそのマインドセットを変える必要があります。リカレント教育を通じて社会人も学び直しをし、市場における自身の希少性を持続的に高めていくことが重要になるのです。

私は社会人が学んだ内容をアウトプットする実践の場としてパラレルキャリアを重視しており、そのため「パラレルキャリア研究会」というコミュニティを立ち上げました。学校に限らず学んだ内容を仕事を通じてアウトプットするパラレルキャリアの実践に向け、メンバー達と日々能力開発に取り組んでいます。

現在は新規会員も募集中ですので、パラレルキャリアに興味のある方、私達と一緒に学んでみたいという意欲のある方は、お気軽にこちらからお問い合わせください。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。