近年「データは未来の通貨」と言われるようになっております。
デジタルトランスフォーメーションなどに注目が集まっている現代にあって、興味深いテーマだったので、今回の記事では、通貨が果たす役割を考えた上で、データが未来の通貨となり得るかについて著者が整理&考えた内容を紹介していきます。
なお、本記事で扱う「データ」とは、我々個人が所有するデータや企業・社会・自然界などから得られる何らかの意味を持つデータを指しており、仮想通貨などの暗号資産データそのものは含んでいないことをご承知おきください。
データは未来の通貨となり得るのか?
はじめに「通貨」のもつ役割とは?
「通貨」は現代における決済手段の代表
私たちは、何らかの労働を行うことの対価として通貨を手にします。そして、何かを手に入れたい場合、手に入れた通貨を支払うことで、手に入れたいものを手に入れております。
このように現代において通貨は私たちの生活における決済手段として不可欠なものとなっております。
「通貨」がない時代の決済手段であった「物々交換」
通貨が誕生する以前の世界において、物々交換が経済活動の根幹となっていた時代がありました。物々交換ではお互いが欲しいものを交換することが原則となり、また、取引を行う2者のどちらかに直接欲しいものがなかった場合においても、価値のあるモノを交換することで物々交換が成立しておりました。
これは、価値のあるモノは、別の物々交換の機会に使うことができるためです。当時は「布・塩・貝・砂金」などが価値の下がりにくいモノであったと言われております。
さて、この物々交換における価値のあるモノは、ただ単に価値が高ければ良いというわけではありませんでした。いつでも誰にとっても価値のあるモノである必要があります。たとえば、新鮮な魚は価値のあるモノかもしれません。しかし、腐ってしまえば価値は下がります。
つまり、価値を持続し得ないものは、いつでも価値のあるモノの役割を果たせないことになります。また、我々日本人にとって「水」は蛇口をひねれば出てくるものですが、砂漠や水道管のインフラが整っていないエリアで暮らす人々にとっての「水」は価値の高いものとなります。つまり、「水」の価値はその人が暮らすエリアの違いにより、誰にとっても価値のあるモノの役割を果たせないことになります。
つまり、物々交換が行われていた時代から考えると、通貨に求められる役割は「いつでも誰にとっても価値のあるモノ」と考えることが出来そうです。
「通貨」の定義は?
「通貨」は「決済手段」のひとつであり、「決済手段」には「いつでも誰にとっても価値のあるモノ」ことが求められることが分かりました。次に別の観点で「通貨」の役割を考えるために、辞書に載っている定義を調べてみました。
ブリタニカ国際大百科事典によると、通貨の意味は、
一般には貨幣と同義に用いられているが,厳密には貨幣の諸機能,(1) 価値尺度,(2) 商品流通の媒介物としての流通手段,(3) 商品交換の最終的決済としての支払手段などのうち,(2) の機能を果す貨幣のことをいう。通貨は本位貨幣のほかに手形,銀行券,小切手,預金通貨などのすべての信用貨幣をも含む。
とあります。つまり「いつでも誰にとっても価値のあるモノ」という観点も踏まえて考えると、
- 価値尺度=価値が測れること(誰にとっても価値があるの意味も含む)
- 流通手段=実体があり流通性があること(いつでも価値があるの意味も含む)
- 支払手段=相手に渡すことが出来ること
の3点が、「通貨」に求められる役割と言えそうです。
「データ」は「通貨」となり得るのか?
「価値がある」「価値が測れる」「実体があり流通性がある」「相手に渡せる」ことが「通貨」に求められる役割でした。それでは、この4つの役割を「データ」に当てはめた場合はどうなるのでしょうか?
①「データ」には価値があるのか?
はじめに「データに価値はあるか?」という問いに対しては「価値がある」と考えます。
スマートフォンが普及した現代において、Google検索・Gmail・Google MapなどのGoogleサービスや、YouTube・Facebook・LINEなどのあらゆるネットサービスは無償で提供されております。
これらネットサービスはなぜ無償で提供されているのでしょうか?
それは、これらネットサービスは広告収入で成り立っているためです。
一般消費者であるユーザーはネットサービスを無償利用できることの条件として、ターゲティング広告に必要な情報をネットサービス事業者に提供します。その情報には、個々ユーザーの居住エリア・年齢・性別などの情報や過去に閲覧したページなどの情報が含まれます。
そして、ネットサービス事業者はターゲィング広告の場を、広告を出したい顧客(事業者)に提供するのです。
つまり、消費者ユーザーの情報を欲しい人が存在することが、あらゆるネットサービスが無償で提供されている理由となり、データには価値があることを意味します。
よって「データに価値はあるか?」という問いに対しては、「価値がある」と言えます。
②「データ」の価値を測れるか?
次に「データの価値を測ることができるか?」という問いに対しては、「現状は難しい」です。
たとえば動画共有サービスのYouTubeは誰でも無償で利用できますが、動画を見るたびに広告が流れてきます。
一方で、YouTube Premiumというサービスを利用し、月額1,180円を支払えば(2021年3月時点)、広告表示はなくなります。
しかし、私たちがYouTube (Google社)に提供している個人の情報の価値を月額1,180円とするのは難しいかもしれません。
その理由は、私たちがYouTubeに提供している個人情報を、他のネットサービス(企業)が同じ価値をつけてくれるとは限りませんし、そもそもYouTube Premiumのサービスは、広告表示がなくなるだけではなく、他の付加サービスも付いてくるため、個人の情報に対して支払われている純粋な価値を測ることは出来ないと言えます。
よって「データの価値を測ることができるか?」という問いに対しては、「現状は難しい」という考え方が妥当かもしれません。
③「データ」には実体があり流通性があるか?
「データは実体があり流通性があるか?」という問いに対しては、「実体&流通性はある」と考えます。
データそのものは「0」と「1」のデータ列の集合体であり目には見えないバーチャルなものという解釈もできます。一方で、データは「0」と「1」のデータ列で構成された数値情報であったり文章情報であったり、あるいは画像情報であったりします。そのため、私たちはそれらデータをPCで表示させるなどの方法で、そのデータの実体を確認することが出来ます。
また、データは、持ち運びが極めて容易であることと、事故(不正)や故意によりデータを消去した場合を除き、劣化・消滅することもないため、流動性があると言えます。少なくとも、新鮮な魚のように途中で腐ることはありません。
よって「データは実体があり流通性があるか?」という問いに対しては、「実体&流通性はある」と考えました。
④「データ」は相手に渡すことが可能か?
最後に「データは相手に渡すことが可能か?」という問いに対しては、「基本的には不可能、だが技術で解決できるようになる」と考えます。
データは容易に相手に渡すことが出来ます。しかし同時に、データは容易にコピーすることが出来ます。つまり、コピーしたデータを繰り返し取引の手段として用いることが出来てしまうことを意味します。
このコピー可能であるということを、通貨に当てはめて考えた場合はどうなるでしょうか?誰でもコピー出来てしまうような通貨は、信頼が下がり、結果的に通貨としての機能が果たせなくなることは容易に想像できると思います。
しかし、テクノロジーの力を用いることで、手元にデータのコピーを残すことなく、相手にデータを渡すことは可能です。公開鍵と暗号鍵を用いた暗号化による方法です。インターネットの世界でSSL(Secure Sockets Layer)としても用いられている技術です。ここでの詳細な説明は割愛しますが、最後の問いに対しては、テクノロジーの力で、解決・実現できるようになるかもしれないと考えます。
よって「データは相手に渡すことが可能か?」という問いに対しては、「基本的には不可能、だが技術で解決できるようになる」としました。
まとめ
今回の記事では、データが未来の通貨になり得るかについて著者なりに整理した内容を紹介していきました。
通貨に求められる役割として「価値があること」「価値が測れること」「実体があり流通性があること」「相手に渡せること」の4つがあることを書きました。
そして、データには「価値」「実体・流動性」はあるものの、「価値を測る」「相手に渡す」という点において課題がありそうです。
よって「データが未来の通貨になる得るか?」という問いに対する、私の答えは「まだ近い将来の間は実現しない」です。
しかし、挙げた課題を解決する仕組みや技術が出来れば、実現する日が来るとも言えますし、その課題自体が新たなビジネスチャンスになるのかもしれません。
じゃあ。