機械翻訳の発達で英語学習は不要になるか

第4次産業革命で活躍する次世代ビジネスパーソンにとって、ビジネス英語が必要なスキルであるという点や、また英語を学ぶメリットについては、過去にこれらの記事でご説明しました。

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一方で、これから機械翻訳の精度が上がれば、個人での英語学習はもはや不要になるという意見も散見されます。今回は、機械翻訳の発達により英語学習が不要になるのか、という点を掘り下げます。

AI技術を売り込みたい企業のマーケティング戦略

私は前述の「機械翻訳によって英語学習は不要になる」という意見は、AI技術を売り込みたい企業のマーケティングだと感じています。

さまざまな書籍などでも論じられているように、AIは意味を理解しません。コンピューターは計算機ですから、できることは基本的に四則演算のみです。足し算や引き算の式に翻訳できないことは処理できません。「A=BかつA=CであればB=C」など理論的なこと、過去の結果から結果を推測するなど確率的なこと、蓄積されたデータを分析し仮説を立てるなど統計的なこと、これら3つのみを行うことができます。この四則演算のアルゴリズムは、次世代スパコンや量子コンピュータが開発されようとも変わりません。

これはAI技術を利用した自動翻訳ソフトについても同様で、AIは文章や言葉の意味を理解しているわけではなく、我々の入力に応じた「計算」をし、答えを出力しているに過ぎません。Google翻訳も、確率過程と統計に基づく言語モデルで構成されています。人間は、自分達の認識全てを「理論」「統計」「確率」に還元することはできません。AIに意味を記述する、人間的に言えば「教える」方法は、少なくとも数学には存在しないのです。それゆえ、「意味」を理解しないAIを利用した自動翻訳ソフトが人間にとってかわることは、不可能だと考えられます。

以上の考えを基に、実際にAIや機械翻訳の限界が見られる事例をご紹介しましょう。

AIの限界①:音声認識応答システム(Alexa & Siri)

Siri、Google home、Amazon Alexaといった音声認識応答システムは、「音声認識技術」と「情報検索技術」を組み合わせたものです。情報検索技術においてAIは、文章の意味を理解しているのではなく、音声入力された文章に登場した既知の単語と他の単語との組み合わせから統計的に推測して、正しそうな回答を導き出しています。文章の「論理」を理解しているわけではないのです。

私はSiriとAlexaを使っていますが、「この近くのイタリア料理以外のレストランは?」と尋ねると、文中の「以外」という単語の意図(意味)を認識せず、近所のイタリアンレストランを教えてくれます。前述のとおり、Siriは文章を単語レベルで分解して類似の文章を参照し、対応している確率が最も高いと思われる回答を引っ張ってくるだけなのです。今回の例では、「以外」を使用した過去の例文が少ないため、適切な答えが導き出せない結果となったのです。ユーザーにとってみれば、この「以外」という単語がとても重要なのですが、コンピューターにはその意図が理解できないのです。

AIの限界②:機械翻訳-1

Google翻訳は、確率過程と統計に基づく言語モデルで構成されています。Google翻訳で「図書館の前で待ち合わせしませんか」という英文を日本語に翻訳した結果を過去のものと比べてみると、時間の経過とともにデータの蓄積量が増え、精度が上がっていることが分かります。

機械翻訳の発達で英語学習は不要になるかの図です

しかし、機械翻訳は日常会話などのちょっとした翻訳の助けにはなっても、製品のマニュアルや、ユーザーアンケートの調査票、契約書や論文など、厳密さが求められる文章においては実用に耐えるレベルではありません。実際に私も海外とのビジネスにおいて、調査票やアンケート表を作る際にGoogle翻訳をよく利用しますが、やはり日本語の原典をGoogle翻訳で訳しても使い物にならないといったことが多いです。

これは有名な例ですが、「山田は私の同僚だ。私は先週、山田と広島に行った」という文章を英語に訳す場合、人間であれば文脈により「山田」が人間で「広島」が場所だと認識して

Yamada is my colleague. I went to Hiroshima with Yamada last week.

と翻訳することができます。しかし、AIには行間が読めません。そのため、

Yamada is my colleague. I went to Yamada and Hiroshima last week.

となってしまいます。こういう点がAIの限界と言われており、機械翻訳ソフトで翻訳した文章をそのまま何でも使えるようになる、というのは、永久に難しいとも言われています。現在のGoogle翻訳でも同様の結果が表示されますので、興味がある方は試してみて下さい。

AIの限界③:機械翻訳-2

さらには、書籍『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で取り上げられている、AIに過去の大学入試センター試験の問題を解かせた実験結果も興味深いです。

機械翻訳の発達で英語学習は不要になるかの図です

空欄に入る単語を順番に並び替える問題ですが、答えは

(So)I asked for something cold to (drink). (冷たい飲み物を頼んだ)

ですが、AIの答えは下記のとおりでした。

(So)cold. I asked for something to (drink). (とても寒くて、飲み物を頼んだ)

ピリオドを勝手に増やしてしまったというそもそものルール違反はさておき、人間であれば「hot weather」という単語から、話者が寒くない状況だったことは暗黙的に理解できます。しかし、AIにはこれが理解できません。そのため、人間から見れば思いもよらない文章が出来上がるのです。

人間による翻訳を機械翻訳が代替する日は来ない

機械翻訳の予測度合いを高めるには、1,000万組以上の膨大な対話データが必要だと言われています。さらに日本語の会話文は疑問文や応答文が多く、主語も省略されがちなので非常に難解だと言われています。人間であれば例え文章の主語が省略されていても文脈から理解できますが、AIには分かりません。

特許翻訳用に作られたAIは旅行翻訳では使えませんし、旅行翻訳用に作られたAIは国際会議では使えません。厳密な機械翻訳が求められる国際会議やビジネスシーンで使う翻訳機を、統計的手法の機械翻訳で製造するのは非常に難しいと考えられます。機械翻訳によって作成した説明書によって製造物責任のリスクまで負うのは得策とは考えられません。

以上のことから、機械翻訳の発達で英語学習は不要になるというのは、やはり楽観的すぎると言わざるを得ません。意味を考えない機械翻訳が人間の翻訳を完全に代替する日は、来ないだろうと言われており、Google社もこれと同様の認識を持っているようです。海外旅行など限られた場でしか英語を使わないのであれば話は別ですが、仕事面ではやはりビジネス英語の習得は必須なのです。

加えて、相手方とのコミュニケーションの問題もあります。翻訳機を介してのやりとりのみで相手と打ち解け、良好な関係を築けるかというのは甚だ疑問です。個人的には、機械翻訳に頼るだけで相手と良好な関係性を築くのは難しいと思っています。

私たちは30代から50代のビジネスパーソンに向けて、パラレルキャリア研究会というコミュニティーを運営しています。当研究会ではビジネス英語もパラレルキャリア開発の対象として、互いに能力を高め合う場を提供しています。

私達と一緒に学んでみたいという意欲のある方、ビジネス英語の向上やパラレルキャリアに少しでも興味がある方は、お気軽にこちらからお問い合わせください。

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ABOUTこの記事をかいた人

ビジネスパーソンのリスキングを支援するパラレルキャリア研究会を主宰。 【経歴】 京セラ→アマゾンジャパン→ファーウェイジャパン→外資系スタートアップ→独立(起業)。早大商卒、欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)。「デジタル戦略コンサルティング(社外のデジタル戦略参謀)」、「講師業」、「Webアプリ開発」、「データサイエンス」を生業にするパラレルワーカー。